2022年9月22日
羽織のTPOと魅力をおさらい「どんなときに着たらいいの?」
こんにちは。
いせやスタッフのF です。
「カーディガンくらいは持って出ないと、夜風が肌寒いかな」
秋の気配が漂う、今日この頃。
皆様、着物ライフいかがお過ごしでしょうか。
さて今回は、今まさにお伝えしたい「ハオリモノ」のこと。
「先日、亡くなった祖母の着物箪笥を整理したときに好みの小紋柄が出てきたので広げてみたら、着物じゃなくて羽織だったんです。
でも今まで羽織を着たことがなくて、どんな時に着たら良いのかわからないので、教えてください」
着付けを習い始めて間もないA様から、こんなご相談を受けました。
ということで、今回は「羽織」についてのお話です。
男物からはじまった羽織の歴史
まずは羽織の歴史から。そのはじまりには諸説ありますが、
「陣羽織(じんばおり)(戦国武将が着用)」や、小袖の上に着ていた「胴服(どうふく)(室町時代頃、小袖の上に羽織ったもの)」、「道服(どうふく)(公家などの室内での上衣)」などといわれています。
江戸時代中期頃には、紋付の羽織+袴姿(はかますがた)が、身元を明らかにする武士の正装となり、現在でも男性の第一礼装は「羽織(五ツ紋)袴」。男児の七五三(五歳「着袴の儀(ちゃっこのぎ)」)ですら、羽織袴姿と決まっています。
そして、男性ものとして着られていた羽織を女性が着始めたのは、江戸時代の深川芸者(辰巳芸者)。当時のファッショニスタだった彼女たちが、男物とされていた羽織を男勝りに着こなした粋な装いはさぞかし格好良く、人目を引いたのではないでしょうか。
男性と女性で役目が違う!? 男性の「羽織」は礼装の必須アイテムで女性の「羽織」はカジュアル扱い!?
こうして男物としてはじまった羽織の歴史は、今もその役割に確固たる男女差を残しています。
男性の礼装、盛装にとって羽織は、袴(はかま)と共に欠かせない必須アイテム。
室内で脱ぐこともありません。
一方で、女性の礼装、盛装に羽織が用いられることはありません。
訪問着、留袖、振袖などには、コート類を着るほうが一般的で、基本的に羽織は合わせません。
ただし、羽織が無地、ぼかし、絵羽模様など礼装向きの色柄であれば、お召しになられる方もいらっしゃるようですし、「訪問着の上に、羽織を着ることはありません」と言われる方もいます。
このあたりは着物、羽織の生地、色柄、TPOによって少し幅があってもよいのではないかな、と思います。
そして、かつて明治時代から昭和50年代頃までの既婚女性に流行った、こんな風習もありました。
略礼装に、黒羽織(黒の無地に紋付の羽織)を用いていたのです。
例えば、黒羽織を羽織れば喪服の代用とみなされ、弔意を表しつつ急な仏事へと駆け付ける通夜の装いに。
あるいは入学式、卒業式などで学校へ赴く母親たちが、小紋や色無地などの着物に黒羽織姿で参列。その際は、黒地に絵羽柄も多く見られました。
いずれも、現在ではなかなか見かけられなくなってしまいましたね。
では、羽織はどのように楽しんだらよいのでしょうか。
コートは外套、羽織はカーディガン 羽織は室内でも着たままでOK!
まずは、コート類との違いについて。
①どこで着る?
●コート
洋装同様に、玄関の外で脱ぐべきもの。あくまで外套(がいとう)です。
●羽織
室内でも着たままでOK。カーディガンのように、微妙な温度調節のために重宝します。
②形の違いは?
●コート
外套の役割なので着丈も長めがほとんどです。
襟型などの違いによりバリエーションも豊富(道行(みちゆき)、道中着(どうちゅうぎ)千代田襟、へちま襟、着物襟、被布襟、雨コートなど)。
↑ 道行コート
●羽織
前が開いた状態で、乳(ち)に付けられた羽織紐で、前を閉じます。
↑ 羽織
③格の違いは?
●コート
正装・礼装・準礼装用には、無地やぼかしのものなど改まった雰囲気のもの。
カジュアルには、小紋柄など多様な色柄、素材があります。
着物を保護する役割のために着丈長めのタイプをお召しの方が多く、防寒第一のものには、厚手ウールなども有り。
●羽織
カジュアル寄りの扱いで、フォーマルの装いにはあまり着ません。
たとえ、防寒着としてウールコートなどとの合間に着る場合でも、式典などの会場内・室内に入る前には、脱いでおきましょう。
「紅葉(もみじ)とともに着て、桜とともに脱ぐ」羽織のこだわりアレコレ
「紅葉とともに着て、桜とともに脱ぐ」
羽織を着る時季を伝えるこのフレーズ、なにか風情がありますね。
カジュアルシーンで着るからこそポイントを押さえて、ご自分の着こなしを見つけてください。
《着丈》時代と共に変化してきました
長羽織
ふくらはぎ辺りの長さで、エレガントな印象ですが、長過ぎても野暮ったく見えることも。
中羽織
膝丈程度。一般的な長さです。
茶羽織(ちゃばおり)
腰あたりまでの長さ。1反から2枚作れて軽快な感じがしたため、戦後に流行っていました。
《素材、仕立て》季節によりいろいろ
素材
絹、麻、ウール、化繊などさまざまな素材があります。
仕立て
単衣と袷(羽裏付き)仕立ての他に、レース素材などの「夏羽織」も。かつては、家庭着用に綿入れもありました。
《羽織紐》素材、長さいろいろ
素材
組紐が一般的ですが、羽織生地の共布を紐状にしたものや、ビーズなども。
長さ
女短(めたん)
ちょうど一結びできる20〜25㎝程度。
女中(めちゅう)
蝶結びできる程度35〜40㎝程度。
無双(むそう)
ビーズ等を使用して結ばずに着脱できるタイプ。
「乳(ち)」の位置
羽織紐の根元を通す乳は、文字通りバストトップの位置に。
《羽裏》素材いろいろ
「裏勝(うらまさ)り」といわ、男性の羽織には特別な思いが込められていました。
特に江戸っ子の渋い羽織。するりと脱ぐと、目を見張るほど派手な羽裏が現れ、見る人を楽しませていました。
女性の羽裏も、脱ぎ着がしやすい滑りの良い生地を合わせます。
女性らしさ、三割増し!?「羽織姿」のたおやかさ
最後に、羽織姿の魅力をもうひと押し。
「羽織姿」と聞いて有名なあの絵、《築地明石町》(鏑木清方(かぶらぎきよかた) 作)を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
清方作品を代表する「三部作(昭和初期)」となった《浜町河岸》《築地明石町》《新富町》(東京国立近代美術館所蔵)。
そのうち、実に二人の女性モデルに羽織を着させた清方。
清方三部作はこちらから → 千代田区観光協会
コート姿より、何か女性らしいたおやかさを感じさせるものが漂っている気がしませんか。
羽織り方、脱ぎ方、羽織紐の結び方。
少しだけ気を配った身のこなしで、たおやかな女性らしさが三割増しとなりますよ。
どのようなハオリモノが自分に合っているのか迷ったら、
いせやスタッフに、お気軽にご相談ください。
仕立て上がりもございますが、一から反物をお選びし、ぴったりサイズでのお仕立ても承っております。
▶︎ご来店の際は事前にご連絡をいただけましたらスタッフが準備してお待ち申し上げております。
自慢の染織コレクション、こちらに一部ご紹介しております。
▶︎いせや呉服店「染織の世界」
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いせやグループは埼玉県深谷市・鴻巣市・東松山市・熊谷市・上里町・本庄市・川越市に店舗がある老舗呉服店です。
晴れの日の着物からカジュアル着物まで、呉服全般を取り扱っているほか、着物のお手入れのご相談なども承っております。
いせや呉服店では「前結びの着付け教室」を開催しております。ぜひお気軽にお越しくださいませ。