2025年9月21日

着物のお手入れQ&A!夏場に着た着物の正しい保管方法

皆様こんにちは、いせや深谷本店の小林です。
今回は夏場に来た着物のお手入れについてお話させて頂きます。

 

夏場に着た着物は、見えない汗や皮脂汚れが繊維の奥深くに染み込んでいます。これらを放置してしまうと、来年の夏に着ようと思った時に、カビが生えていたり、シミが浮き出ていたり、最悪の場合は生地がボロボロになってしまうこともあります。

「どうすればいいの?」「クリーニングに出すタイミングは?」「家でできるお手入れは?」

今回は、そんな皆さんの疑問に、徹底的にお答えしていきます。このブログを読めば、もう夏の着物のお手入れに悩むことはありません!


 

着物を脱いだら、まずすべきこと

 

Q1:着た後、すぐに畳んでしまってもいいですか?

 

A:そのまま畳むことはお控えください。

着物は「生きた繊維」と言われます。一日中、あなたの体に寄り添い、汗や湿気を吸い込んでいます。脱いですぐに畳んでしまうと、湿気が逃げ場を失い、着物の中に閉じ込められてしまいます。これが、カビや黄ばみの最大の原因です。

着物を脱いだら、まずは着物ハンガーにかけて、風通しの良い日陰で半日〜1日かけて陰干しをしてください。この時、直射日光は避けることが肝心です。紫外線は着物の染料を劣化させ、色褪せの原因になります。また、部屋の窓を開けて空気の通り道を作り、扇風機やサーキュレーターを使うとより効果的です。

 

Q2:陰干しをする時、どのくらいの時間が必要ですか?

 

A:最低でも半日、できれば丸一日かけてください。

特に汗をたくさんかいた場合は、水分が完全に蒸発するまでしっかりと時間をかけましょう。陰干しをすることで、着物にこもった熱や湿気が抜け、繊維が元の状態に戻ろうとします。着物のお手入れは、この「一息つかせてあげる時間」が最も重要と言っても過言ではありません。


 

汗とシミの対処法

 

Q3:汗をかいた部分はどうすればいいですか?家で洗うことはできますか?

 

A:ご自身で洗うことはNGです。

「汗ジミが気になるから、水で濡らしたタオルで拭けばいいかな?」 「部分的に洗剤をつけてみようかな?」

こう考える方は多いかもしれませんが、着物の生地は非常にデリケートです。水に濡らすことで縮みや色落ちを引き起こしたり、洗剤を使うことで生地が傷んだり、変色したりするリスクが非常に高いのです。

また、見た目には汗が消えたように見えても、汗に含まれる塩分やタンパク質、ミネラル分が繊維の中に残り、時間の経過とともに黄ばみや輪ジミとして浮き出てくることがあります。これが**「見えない汚れ」**の恐ろしさです。

汗をかいた着物は、陰干しで湿気を飛ばした後に、着物専門のクリーニング店に相談してください。プロは着物の素材や染めの種類を見極め、「汗抜き」という専門的な技術で汗の成分を分解・除去してくれます。

 

Q4:汗抜きと丸洗いの違いは何ですか?

 

A:汗抜きは水溶性の汚れ、丸洗いは油溶性の汚れを落とします。

  • 丸洗い(ドライクリーニング): ベンジンなどの有機溶剤を使って、皮脂やファンデーション、食べこぼしなどの油溶性の汚れを落とす方法です。着物全体をさっぱりとさせる効果があります。
  • 汗抜き: 専門の溶剤や水を使って、汗に含まれる塩分やミネラル分、タンパク質などの水溶性の汚れを落とす方法です。丸洗いだけでは落ちない汗ジミをしっかりと除去できます。

夏に着た着物は、汗抜きが欠かせません。特に一度でも汗をかいたと感じたら、次のシーズンも気持ちよく着るために、丸洗いと一緒に汗抜きも依頼しましょう。


 

正しい畳み方と保管の準備

 

Q5:畳み方がよく分かりません。どんな畳み方がいいですか?

 

A:基本の「本だたみ」をマスターしましょう。

着物を美しく保つためには、正しい畳み方が欠かせません。シワを防ぎ、着物の形を整えるために、「本だたみ」という方法で丁寧に畳んでいきます。

【本だたみの手順】

  1. 平らな場所に広げる: 着物を広げ、背縫いを中心に左右対称になるように整えます。畳の上や、シワのない大きな布を敷いたフローリングが適しています。
  2. 右側の身頃を折りたたむ: 右の襟先を持ち、裾に向かって折りたたみます。背縫いと地縫い(衽線)が重なるようにします。
  3. 右の袖を折りたたむ: 身頃を折りたたんだら、右の袖を身頃の上に折りたたみます。この時、袖山で折るのがポイントです。
  4. 左側の身頃を折りたたむ: 右側と同様に、左の身頃と袖を折りたたみます。
  5. 中央で二つに折る: 襟側と裾側を重ねるように、着物全体を中央で二つに折ります。

この手順で畳むと、着物に余計なシワがつかず、次に着る時に気持ちよく着られます。初めての方は、YouTubeなどで「着物 本だたみ」と検索して、動画を参考にしながら練習してみてください。

 

Q6:着物ブラシは必要ですか?

 

A:持っておくと便利です。

着物ブラシは、着物表面についたホコリや細かいゴミを優しく払い落とすための専用のブラシです。陰干しが終わった後、ブラシで軽く撫でるようにホコリを払うだけで、着物がよりきれいに保てます。ブラシは、毛が柔らかい馬毛や豚毛のものを選びましょう。


 

保管環境とアイテムの選び方

着物保管

 

Q7:どこに保管するのが一番良いですか?

 

A:湿気が少なく、風通しの良い場所が最適です。

着物は湿気と紫外線が大敵です。

  • 桐のタンス: 昔から着物保管に使われてきた桐のタンスは、桐材が呼吸するため湿度を一定に保ちやすく、防虫効果も期待できるため、着物保管の理想的な場所です。
  • 着物用衣装ケース: 桐のタンスがない場合は、通気性の良い不織布の着物ケースや、プラスチック製の衣装ケースでも問題ありません。ただし、プラスチック製の場合は湿気がこもりやすいので、定期的に蓋を開けて換気したり、乾燥剤を一緒に入れるなどの工夫が必要です。

どちらの場合も、保管場所は窓際や北側の壁沿いなど、湿気がたまりやすい場所は避けましょう。 床から少し離れた場所に置くのもポイントです。

 

Q8:たとう紙(文庫紙)は必ず使うべきですか?

 

A:はい、お使いになることを強くおすすめします。

たとう紙は、着物を湿気やホコリから守るための和紙製の包み紙です。和紙は通気性や吸湿性に優れているため、着物を良い状態で保つことができます。たとう紙にシワや黄ばみが見られたら、交換のサインです。

 


 

長期保管のための年間スケジュール

 

 

Q10:一度しまった着物は、そのまま放置していても大丈夫ですか?

 

A:いいえ、年に一度は虫干しをしましょう。

着物を良い状態で長く保つためには、**虫干し(陰干し)というお手入れが欠かせません。特に梅雨が明け、空気が乾燥する秋(9月〜10月)**が最適です。

【虫干しの手順】

  1. 天気の良い日を選ぶ: 湿度が低く、カラッと晴れた日を選びます。
  2. 着物を取り出す: 保管場所から着物を取り出し、たとう紙から出します。
  3. 風通しの良い日陰で干す: 着物ハンガーにかけ、風通しの良い日陰で数時間干します。この時、直射日光は避けてください。
  4. 状態をチェックする: 着物全体を広げ、シミやカビ、シワ、虫食いなどがないか、隅々までチェックします。特に、襟元、袖口、裾の裏側など、汗や汚れがつきやすい部分を念入りに見ましょう。
  5. 再び畳んでしまう: 問題がなければ、再びたとう紙に正しく畳んで保管します。

この虫干しをすることで、湿気を飛ばし、着物を新鮮な状態に保つことができます。また、小さなトラブルを早期に発見し、大ごとになる前にプロに相談できるというメリットもあります。


 

よくある質問と落とし穴

 

着物たたみ方

Q11:シミを発見したらどうすればいいですか?

 

A:ご自身で対処せず、プロに相談してください。

自分でシミ抜きを試みようとすると、逆にシミを広げてしまったり、色落ちさせてしまったりする危険性があります。シミの種類(汗、油、カビなど)によって、対処法は全く異なります。まずは、着物専門のクリーニング店に持ち込み、「シミ抜き」を依頼しましょう。シミは時間が経つほど落ちにくくなるので、早めの対処が肝心です。

 

Q12:着物のカビを発見したらどうすればいいですか?

 

A:カビの大きさによります。

  • 初期のカビ(白い点々): 乾いた布で優しく拭き取れる程度の初期のカビであれば、自己責任で慎重に行うことで対処できる場合もあります。
  • 広範囲のカビ(黒や緑色の斑点): このようなカビは、繊維の奥深くまで根を張っている可能性が高いです。無理に自分で取ろうとすると、生地を傷めたり、カビを広げたりしてしまいます。この場合は、プロの業者に依頼されることをお勧めします。 カビ取りと、カビによる変色を直す**「カビ抜き」**という技術が必要になります。

 

最後に…着物はあなたの分身です

 

着物は単なる衣類ではありません。あなたの思い出や、受け継いできた歴史、そして季節の移ろいを静かに見守ってきた、いわばあなたの分身のような存在です。

夏に着物を楽しんだ後の丁寧なお手入れは、少し手間がかかるように感じるかもしれません。しかし、これらを一つひとつ丁寧に行うことで、大切な着物は何十年も、次の世代まで美しく受け継がれていきます。

皆さんの着物ライフが、もっともっと豊かになることを願っています。

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いせやグループは埼玉県深谷市・鴻巣市・東松山市・熊谷市・本庄市に店舗がある老舗呉服店です。

晴れの日の着物からカジュアル着物まで、呉服全般を取り扱っているほか、着物のお手入れのご相談なども承っております。

 

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