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2025年10月26日
知っておきたい!着物の「格」とフォーマル・カジュアルの使い分け

皆様こんにちは、いせや深谷本店の小林です。
今回は着物の格について、フォーマル・カジュアルの使い分けについてお話させて頂きます。
ぜひご一読ください。
1. 序章:着物の「格」とは何か?なぜ知る必要があるのか

着物、それは日本の美しい文化を象徴する衣装です。しかし、洋服とは異なり、着物には厳格なルール、すなわち「格(かく)」が存在します。この「格」を知らずして着物を着ることは、洋服でいう「結婚式にTシャツとジーンズで行く」ようなマナー違反につながりかねません。
着物の「格」とは、その着物が持つフォーマル度合いを示すものであり、TPO(時・場所・場合)にふさわしい装いをするための道しるべです。これは単なるルールではなく、その場や同席する人々への「心遣い」と「敬意」を示す、日本の美意識の結晶なのです。
1-1. 「格」を決める三つの要素
着物の格は、主に以下の三つの要素の複合的な判断で決まります。
- 着物本体の「種類」と「柄の付け方」: 染めの着物か、織りの着物か。柄が全身につながる「絵羽模様」か、それとも同じ柄が繰り返される「小紋」か。
- 「紋(家紋)」の有無と数: 紋の数が多いほど、また紋の形が正式であるほど格が上がります。五つ紋が最高格です。
- 「帯」や「小物」との調和: 帯や帯締め、帯揚げ、草履などの小物を、着物の格に合わせる必要があります。特に帯は、着物の格を大きく左右する、コーディネートの要となる要素です。
1-2. 「染めの着物」と「織りの着物」の格付け
着物は製造方法によって大きく二つに分けられ、これが格の基本となります。
- 染めの着物(格上): 白生地を後から染めて柄を付けるもの(留袖、訪問着、色無地など)。華やかで光沢感があり、フォーマルな場に適しています。
- 織りの着物(格下): 糸を先に染めてから織り上げるもの(紬、御召など)。節(ふし)のある糸が多く、カジュアルで素朴な風合いがあり、普段着に適しています。
2. 格のヒエラルキー:フォーマルからカジュアルへの道

着物は、最も格式の高い「第一礼装」から、最も気軽な「街着・普段着」まで、大きく四つのカテゴリーに分けられます。このヒエラルキーを理解することが、TPOに合った着物選びの第一歩です。
I. 第一礼装(最礼装)
黒留袖、振袖(大振袖)、黒紋付がこれにあたります。最高の格を持ち、結婚式(親族)、成人式、叙勲など、人生の最も重要な儀式で着用されます。黒留袖は既婚女性、振袖は未婚女性の第一礼装です。
II. 準礼装(略礼装)
色留袖(紋付)、訪問着、色無地(紋付)、付け下げが該当します。結婚式列席、入学式・卒業式、七五三、正式な茶会など、幅広いフォーマルな場で活躍します。既婚・未婚問わず着用可能です。
III. 外出着(おしゃれ着)
紋なし訪問着、江戸小紋、格調高い小紋、お召などが該当します。観劇、ホテルでの食事、同窓会など、少し改まったカジュアルな場面で着用されます。
IV. 街着・普段着
紬、小紋、木綿着物、浴衣がこれにあたります。買い物、散策、カジュアルな食事など、日常の場で着用する最も気軽な装いです。
3. フォーマル着物:格調高き「染めの着物」の世界

フォーマルシーンで着用される着物の多くは、生地を染めて柄を表現する「染めの着物」であり、その華やかさと格調の高さが特徴です。
3-1. 【第一礼装】最高位の装い
1. 黒留袖(くろとめそで)
既婚女性の第一礼装です。地色は黒一色で、裾にのみ吉祥柄の「絵羽模様」が入り、背中、両袖、両胸の五つ紋を入れます。二枚重ねに見せる「比翼仕立て」が必須であり、新郎新婦の母親や親族として着用する、最も格の高い着物です。
2. 振袖(ふりそで)
未婚女性の第一礼装です。長く華やかな袖と、豪華絢爛な絵羽模様が特徴です。袖が最も長い「大振袖」は花嫁衣装にも用いられる最高格です。
3-2. 【準礼装】汎用性の高い社交着
3. 色留袖(いろとめそで)
黒以外の地色の留袖で、裾に絵羽模様が入ります。紋の数(五つ紋、三つ紋、一つ紋)で格が変わります。五つ紋・比翼仕立てであれば黒留袖と同格の第一礼装、三つ紋・一つ紋は準礼装として着用されます。
4. 訪問着(ほうもんぎ)
未婚・既婚問わず着用できる準礼装。肩から裾にかけて、縫い目をまたいで一つの絵画のようにつながる「絵羽模様」が最大の特徴です。紋を付ければより格が上がり、結婚式や式典など幅広いフォーマル・セミフォーマルなシーンで活躍します。
5. 付け下げ(つけさげ)
訪問着と小紋の中間に位置する略礼装です。柄が全て上向きに付いていますが、訪問着のように柄が縫い目をまたいでつながることはありません。控えめで上品な印象を与え、改まったお茶会などに適しています。
6. 色無地(いろむじ)
黒以外の単色で染められた着物で、地紋(じもん)のみが模様となっています。紋を付けることで準礼装として扱われ、合わせる帯で慶事にも弔事にも対応できる、非常に万能な着物です。
3-3. フォーマルを支える「絵羽模様」の高度な技法
留袖や訪問着が格上とされるのは、その柄付けにあります。「絵羽模様」は、着物を仮縫いし、着姿を想定しながら柄を描き、それを解いて染め、再び縫い合わせるという、非常に高度で手間のかかる工程を経ています。この「柄が全体で一つの絵になる」という芸術性と手間暇が、着物に高い格式を与えているのです。
4. カジュアル着物:日常を彩る「織りの着物」と普段着

カジュアル着物は、日常のお出かけや趣味の場など、洋服でいうところの普段着やおしゃれ着に相当します。自由な発想でコーディネートを楽しめます。
4-1. 【外出着】おしゃれを楽しむための着物
7. 小紋(こもん)
全体に同じ柄が繰り返し入っている「繰り返し模様」の着物で、普段着の代表格です。飛び柄小紋や格調高い柄であれば、帯次第で外出着として、少し改まった場にも対応可能です。
8. 江戸小紋(えどこもん)
非常に細かい型染めで、遠目には無地に見える小紋です。武士の裃(かみしも)が起源のため、小紋の中では例外的に格が高いとされます。「鮫」「行儀」「通し」の三役と呼ばれる柄は、紋を付ければ色無地と同格の「略礼装」として着用できます。
9. お召(おめし)
織りの着物でありながら、準礼装の訪問着に近い格式を持つとされる、例外的な織物です。光沢とシャリ感があり、ドレッシーな雰囲気があります。
4-2. 【街着・普段着】最も気軽な装い
10. 紬(つむぎ)
糸を先に染めてから織る「先染め」の着物で、丈夫で独特の風合いがあります。元々が庶民の仕事着であったため、格式の面では最も低い「普段着・街着」とされます。大原則として、紬はいくら高価なものであっても、結婚式や式典などのフォーマルな場には着ていけません。
11. 浴衣(ゆかた)
木綿素材で、最もカジュアルな着物です。夏の祭りや花火大会などのカジュアルな外出着として着用されます。
5. 格の決定打!帯と小物による「格上げ」「格下げ」

着物の格を最終的に決定づけたり、調整したりするのは、帯と小物です。着物と帯の格を一致させることが、和装の基本マナーです。
5-1. 帯の格付けのヒエラルキー:織りが格上
着物本体は「染めが格上、織りが格下」でしたが、帯では原則として「織りの帯(特に礼装用)が格上」となります。
- 袋帯(礼装・準礼装): 金銀糸が多く、格調高い柄。裏地があり二重に織られているため、二重太鼓に結びます。留袖、振袖、訪問着などのフォーマルな着物に合わせます。
- 名古屋帯(略礼装・普段着): 一重太鼓。フォーマル向きからカジュアル向きまで幅広い。付け下げ、紋付色無地、小紋、紬など幅広い着物に合わせられます。
- 半幅帯(普段着): 幅が細く、カジュアルな結び方で楽しむ帯です。浴衣や紬、カジュアル小紋に合わせます。
格合わせの鉄則: 格の高い着物(例:訪問着)には、それに見合った格の高い帯(例:礼装用袋帯)を合わせ、格の低い着物(例:紬)に礼装用袋帯を合わせるのは避けます。
5-2. 格を左右する帯の素材と技法
礼装用の帯は、錦織、唐織、綴れ織(つづれおり)など、格調高い織り方で、金銀糸がふんだんに使われているものが求められます。カジュアル用の帯は、染め帯(友禅染など)や、木綿の帯など、より自由な素材や技法で制作されます。
5-3. 小物と足元のマナー
- 帯締め・帯揚げ: フォーマルでは白、金銀、淡い色など、控えめで格調高いものを。カジュアルでは自由な色柄や素材でコーディネートを楽しみます。
- 足袋と草履: フォーマルな場では白足袋が絶対的なルールです。草履はエナメルや布製で、金銀を使った礼装用の草履を合わせます。カラー足袋や下駄はカジュアルシーンでのみ着用します。
5-4. 紋の知識:格を明確にする記号
紋は、着物の格を明確に示します。五つ紋が最も格式が高く、第一礼装に用います。三つ紋は準礼装として、一つ紋は略礼装として最も汎用性が高い紋の数です。
6. 実践!TPO別・着物の選び方とコーディネート術

6-1. 【最高格のTPO】親族の結婚式・披露宴
新郎新婦の母・祖母は、黒留袖(五つ紋、比翼仕立て)または五つ紋の色留袖。帯は礼装用袋帯(金銀糸多用)を合わせます。この場は最も厳格なルールが適用されるため、全ての小物が礼装用に統一されている必要があります。
6-2. 【準礼装のTPO】友人の結婚式列席・格式あるパーティー
訪問着、一つ紋の色留袖、一つ紋の色無地、格の高い付け下げなどが適切です。帯は礼装用袋帯を合わせます。いかに高価でも紬は厳禁です。また、花嫁衣装と被る「白」一色の着物や、全身白のコーディネートは避けます。
6-3. 【公の儀式】入学式・卒業式
母親(保護者)は、訪問着、一つ紋の色無地、付け下げが主流です。帯は準礼装用袋帯、または格の高い名古屋帯。入学式は明るい色、卒業式は落ち着いた色を選ぶ傾向があります。主役は子供たちであるため、華美になりすぎない上品さが求められます。
6-4. 【外出着のTPO】観劇・同窓会・格式ある食事会
紋なしの訪問着、江戸小紋(紋なし)、小紋(飛び柄など格の高いもの)、お召などが適しています。帯は洒落袋帯や、染め・織りの名古屋帯。この場面では、着物の格を帯で「格上げ」あるいは「格下げ」して、TPOに合わせた装いに微調整します。例えば、紋なし訪問着に格調高い洒落袋帯を締めれば、ホテルでの食事にも対応できる「スマートエレガンス」な装いになります。
6-5. 【街着のTPO】友人とのランチ・美術館・散策
紬(大島紬、結城紬など)、小紋が最も活躍します。帯は染め名古屋帯、カジュアルな織り名古屋帯、半幅帯など。最も自由度が高い場面であり、洋服と並んでも浮かない、親しみやすい装いが理想です。
7. 知識を深める:着物の「格」に関するQ&A

Q1. 紬はなぜ高級品でもフォーマルに着てはいけないのですか?
A. 紬は、その起源が農村や庶民の普段着・仕事着にあります。例え現代において高価な大島紬や結城紬であっても、「身分や歴史的背景に基づく格」が最も低い「普段着・街着」に分類されるためです。格式を重んじる場では、その歴史的背景が重視され、フォーマルな場では「礼装用」と認められた染めの着物が求められます。
Q2. 慶弔両用で使える着物はありますか?
A. 一つ紋の色無地が最も慶弔両用に向いています。慶事(結婚式など)では華やかな帯(礼装用袋帯)と明るい色の小物、弔事(葬儀など)では黒い喪服用の帯(黒共帯)と黒の小物類を合わせます。
Q3. 「格をカジュアルダウンする」とはどういう意味ですか?
A. 格の高い着物を、帯や小物を変えてカジュアルなシーンで着こなすことです。例えば、紋なしの訪問着に、染めや織りの名古屋帯を合わせることで、格式張らないおしゃれ着(外出着)として着用します。ただし、黒留袖などの第一礼装はカジュアルダウンすることはできません。あくまで準礼装以下の着物でのみ可能なテクニックです。
Q4. 喪服の格について教えてください。
A. 喪服にも格があり、最も格が高いのは「黒紋付(くろもんつき)」です。これは五つ紋の染め抜き紋を入れ、主に喪主や近親者が着用する「正喪服」です。親族以外や、少し格を下げたい場合は、一つ紋または三つ紋の「色無地」(地味な寒色系)に、黒共帯(喪服用に染められた黒い帯)を合わせた「略喪服」を着用します。
Q5. 現代のドレスコードにおける着物の解釈は?
A. 現代のドレスコードに当てはめると、「ブラックタイ」(フォーマル)は黒留袖や振袖、「スマートカジュアル」(セミフォーマル)は紋なし訪問着や付け下げ、江戸小紋、「カジュアル」は紬や小紋、木綿着物と解釈できます。特に「スマートカジュアル」の場では、紋のない上品な訪問着や付け下げなどが無難で、帯で華やかさを調整します。紬は基本的にNGと認識しておくことが安全です。
8. 結論:着物ライフを楽しむための「格」の心得

着物の「格」は、一見すると複雑な制約のように思えるかもしれません。しかし、それは着物を着る上で最も大切な、「場をわきまえ、相手を尊重する」という心構えを具現化したものです。
最高の装いは、「着物の格」と「帯の格」と「着用する場の格」が完全に一致したときに生まれます。この格の知識を身につけることで、あなたはもうTPOに迷うことなく、自信をもって和装を楽しむことができるでしょう。
最後に、着物選びで迷った時の二つの心得をお伝えします。
- 「迷ったら、格上の装いを選ぶ」:着物の世界では、少し格上の装いの方が、失礼にあたらず安心です。カジュアルな場に準礼装の着物を選ぶのは問題ありませんが、フォーマルな場に普段着の紬を選ぶのは絶対に避けましょう。
- 「着物と帯の格を一致させる」:染めの着物(留袖・訪問着など)には織りの帯(袋帯・名古屋帯)を、織りの着物(紬など)には染めの帯(名古屋帯)を合わせる、といった基本を押さえることが、上品な着こなしへの近道です。
日本の奥深い美意識とマナーを理解し、あなた自身の着物ライフをさらに豊かにしてください。
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