2025年11月2日

七五三の着物Q&A:お母様・お祖母様が着物で参列する際の注意点

皆様こんにちは、いせや深谷本店の山下です。
今回は七五三に参列する際のお着物のマナーについてお話させていただきます。

七五三は、お子様の健やかな成長を家族みんなで祝う、日本の美意識が詰まった大切な行事です。お母様やお祖母様が着物で参列される姿は、そのお祝いの場を一層華やかにし、お子様にとっても素晴らしい思い出となります。

しかし、「どんな着物がふさわしいの?」「マナーで失敗したくない」と悩む方も多いでしょう。

ここでは、主役のお子様を最大限に引き立てるための、お母様・お祖母様の着物選び、マナー、準備のポイントまで、詳細かつ具体的に解説します。


 

I. 【基礎知識】七五三における着物の「格」のルール

七五三の着物選びで最も重要なのは、「格(かく)」のルールを守ることです。これは、主役を引き立てるための、和装文化における心遣いです。

 

1. 「主役より控えめに」の鉄則

 

七五三はお子様が主役の儀式であり、服装は「略礼装」の場と位置づけられます。付き添いであるお母様・お祖母様は、主役であるお子様よりも「格を下げた(または同格の)控えめな服装」を着用するのが大原則です。

立場 ふさわしい着物の格 具体的な着物の種類
主役のお子様 正礼装・準礼装 晴れ着(四つ身)、被布、羽織袴など
付き添いの大人 準礼装・略礼装 訪問着、付け下げ、色無地、江戸小紋など

 

2. 和装と洋装の「格」の調整

 

特に気をつけたいのが、家族間で和装と洋装が混在する場合です。

  • 和装は洋装より格が高いとされています。
  • お子様が洋装(スーツやドレス)の場合、お母様が和装(訪問着など)を着ると、お子様より格が上になってしまうため、お母様も洋装(セレモニースーツなど)にするのが正式なマナーです。
  • 逆にお子様が和装であれば、お母様は和装・洋装どちらでも問題ありません。

もし「どうしても着物が着たい!」という場合は、お子様にも和装を選んでもらうのが円満な解決策です。

 

3. 母親と祖母の「格」の調整

 

ご両親とご祖父母が揃って参列する場合、お祖母様は母親よりもさらに控えめにするという配慮も大切です。

  • (例1) 母親がやや華やかな訪問着の場合、祖母は一つ紋の色無地や地味な柄の付け下げを選びます。
  • (例2) 母親も祖母も訪問着にするなら、祖母は母親より落ち着いた色柄を選ぶように調整しましょう。

最も大切なのは、両家のお祖母様同士、そしてお母様と、事前に「何を着るか」をしっかり相談し、格を合わせることです。


 

II. 【実践】母親・祖母にふさわしい着物の種類と選び方

七五三

具体的な着物の種類ごとに、七五三にふさわしい選び方のポイントを解説します。

 

1. 訪問着(準礼装)

 

七五三の付き添いで最も多く選ばれる着物です。

ポイント 詳細
派手な原色は避け、淡く優しいパステルカラー(水色、クリーム、薄緑、藤色など)や、落ち着いたトーンのシックな色合いを選びます。
衿から胸、裾にかけて柄が「絵羽模様」としてつながっているのが特徴です。古典柄や吉祥文様(松竹梅、鶴、亀など)が好ましいですが、柄が控えめで上品なものが七五三向きです。
適性 華やかさも保ちつつ、お子様の晴れ着を引き立てたいお母様に最適です。

 

2. 付け下げ(略礼装)

 

訪問着より控えめでありながら、華やかさもある着物です。

ポイント 詳細
訪問着との違い 訪問着のように柄がすべて繋がっておらず、肩と裾の柄が上を向くように配置されているのが特徴です。訪問着と色無地の間の格とされます。
適性 「訪問着は少し華やかすぎるかな」と感じる方や、母親・祖母どちらにも適しています。上品で控えめな装いを好むお祖母様にもおすすめです。

 

3. 色無地(略礼装)

 

一色染めで柄のない着物で、非常に格式高く、控えめな印象を与えます。

ポイント 詳細
紋の有無 紋がない場合はカジュアルにも着られますが、七五三では**「一つ紋(一つ縫い紋)」**を入れることで略礼装となり、格式が整います。
祝いの席なので、地味な色(濃いグレーや暗い紫など)は避け、淡い色や落ち着いた深みのある色を選びます。地紋(生地の織り柄)に吉祥文様が入っていると、お祝いの雰囲気に合います。
適性 控えめな装いを希望する方、特にお祖母様の着物として非常にふさわしいとされます。

 

4. NGな着物

 

  • 黒留袖・色留袖(五つ紋): 正礼装であり、格が高すぎるためNGです。
  • 喪服用の着物(黒無地): 弔事の着物であり、お祝いの席には不適切です。
  • 小紋・紬など: カジュアルな普段着にあたるため、儀式である七五三には不向きです。

 

III. 【祖母向け】着物選びの特別な配慮

着物を長期間保管するときのポイントは?鴻巣店

 

お祖母様が着物で参列される際は、「寒さ対策」と「動きやすさ」に加えて、いくつか特別な配慮が必要です。

 

1. 落ち着きと品格を重視した色柄選び

 

お祖母様の年代にふさわしいのは、流行に左右されない落ち着いた色柄です。

  • 色: 派手な色は避け、渋めの紫、薄茶、緑系、あるいは上品な藤色、薄グレーなどがおすすめです。
  • 柄: 訪問着を選ぶ場合でも、柄の面積が少なく、裾のみに落ち着いた古典柄があしらわれているものを選びましょう。

 

2. 和装小物の格合わせ

 

帯や帯締め・帯揚げも、着物の格に合わせる必要があります。

  • 帯: 格式の高い「袋帯」、または「名古屋帯」を合わせます。金銀糸が過度に派手なものは避けます。
  • 長襦袢: 礼装時は、原則として白または淡色のものを選びます。派手な色柄は避けましょう。
  • 草履・バッグ: 布製の礼装用(フォーマル用)のものを選びます。エナメル素材は光沢が強すぎる場合があります。

 

3. 寒さ対策と体調管理

 

七五三の時期(主に11月)は、早朝や夕方は特に冷え込みます。

  • コート・羽織: 着物の上に着る道行コートや羽織は必須です。移動中や屋外での防寒対策を徹底してください。
  • 足袋・肌着: 厚手の足袋、和装用のインナー(ヒートテックなど)を着用し、腰回りの冷えを防ぎましょう。
  • カイロ: 帯の内側や腰にカイロを貼るなど、無理のない範囲で体温調節をしてください。

 

IV. 【参列マナー】当日を快適に過ごすための工夫

七五三のお祝い着 子どもの健やかな成長を願う

着物は慣れないと疲れるものです。当日は主役のお子様のサポートに集中できるよう、以下の準備を怠らないようにしましょう。

 

1. 着付け・ヘアメイクの準備

 

  • 着付けの予約: 七五三シーズンは美容室や着付け師の予約が大変混み合います。最低でも1ヶ月前、可能なら2~3ヶ月前には予約を確定させましょう。
  • ヘアスタイル: 派手な盛り髪は厳禁。品の良いアップスタイルにし、髪飾りも控えめなもの(パールや小さな簪など)を選びます。主役のお子様より目立つような大ぶりの装飾は避けましょう。
  • 着崩れ対策: お子様を抱っこしたり、かがんだりする動作が多いので、着付けは「きつすぎず、緩すぎず」の絶妙な加減でお願いしましょう。

 

2. 神社での振る舞いと持ち物

 

  • 荷物は最小限に: 小さめのフォーマルバッグに、必要最低限の小物(財布、スマホ、ハンカチ、リップなど)を入れます。大きな荷物はクロークや車に預けるなどして、両手が空くようにしておくと安心です。
  • 足元の注意: 神社の玉砂利や石畳は滑りやすいです。草履は履き慣れたものを選び、慎重に歩きましょう。
  • トイレ対策: 着物でのトイレは洋服と勝手が違います。事前に着付けを依頼した場所などで、着崩れしないトイレの行き方をシミュレーションしておくと安心です。
  • 記念撮影時の立ち位置: 集合写真では、主役であるお子様の隣に立ち、常に笑顔でサポート役に徹しましょう。

 

3. 「レンタル」と「購入」の比較

 

着物レンタル 着物購入
費用 安価に抑えられる(一式数万円程度)。 高額になる(数十万~)。
手入れ 不要(着用後に返却するだけ)。 必要(クリーニング、保管など手間がかかる)。
バリエーション 豊富な中から選べるため、トレンドの色柄を選びやすい。 自分の好きな着物を長く着用できる。
おすすめ 七五三など、特定の行事でのみ着る場合や、手軽さを求める方。 今後も着る機会が多い方(入学式、卒業式、結婚式など)や、体型に合わせて誂えたい方。

七五三は年に一度の行事であり、レンタルの手軽さは大きなメリットです。


 

V. 【最後に】最高の七五三を迎えるために

七五三の着物マナーは、古くからの伝統や慣習に根ざしていますが、現代において最も重視すべきは「家族間の和」です。

お子様の笑顔を最優先に。

そのために、お母様・お祖母様が心身ともに無理なく、快適に過ごせる着物を選ぶこと。そして、ご家族(特に両家のお祖母様同士)が事前に服装について相談し、お互いに配慮し合うことが、このお祝いの日を成功させる鍵となります。

ご自身にとっても、お子様にとっても、家族の絆を感じる素晴らしい七五三となりますよう、心よりお祈り申し上げます。

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